41歳からの不妊治療

41歳から数年間の不妊治療について書き綴ったブログです。(2004年から数年間の過去の内容となります)

5年間の治療生活を振り返って

 治療のことについて、もう一年以上書いていませんね。昨年の6月に8回目の採卵で卵子が回収できなかったことが治療についての最後の投稿になっています。

 手元の「不妊治療.xlsファイル」を見ても、そこでストップしています。

 「不妊治療.xlsファイル」というものを作っていて、いつ、どんな検査や治療をして、いくらかかって、どんな薬をもらって、そのときのカラダの状態や気持ちの動きといった内容を記録しています。

 Excelですから、約5年の治療期間でクリニックに支払った金額は計1,318,730円だということがすぐにわかります。人工授精1回、体外受精5回で、採卵に失敗したのが3回で、自然に卵を育てるやり方で治療していたので、治療費は少ない方だと思います。

 別に、いついつ治療をやめました、ということはないのですが、気持ちがそこに向かわなくなっているので、この先もうクリニックに行くことはないだろうと思います。お世話になったドクターと看護師さんにご挨拶しないままフェイドアウトしていくのはちょっと心苦しいのですが、挨拶のためだけにクリニックに行くというのもね(^^;)

 だから、なんとなく、どこかで区切りをつけたいと思うので、5年間を振り返って、ブログ上で区切りをつけようかと、ちょうど年も変わるタイミングですしね。

 不妊治療をとおして、得たもの、失ったもの。

  ・失ったもの:お金、時間、仕事
  ・得たもの:何もない

 治療の途中ではそう思ってました。

 治療を始めて3年ぐらいのとき、不妊治療に携わる医療従事者の研修で、治療体験者として話をする機会があって、そのときの質疑応答で、治療をとおして得たもの、失ったものは?という質問があったのです。

 そのときに「得たものは何もありません」と反射的に答えていて、自分でもびっくりしたんです。普段は割に考えてから言葉にするほうなのに、そのときは口をついて出た、という感じでした。それだけつらかったんですかね、やっぱり。

 でも、あらためて5年間を振り返ってみたときに、得たものがいくつもあることに気がつきました。

 治療の途中では、もしこれで結果がでなかったら治療期間は無意味なものになってしまう、かかったお金も、と思っていました。それは途中で仕事をやめて自分は何も生産していないのに、お金と時間を無駄に使ってしまったと考えていたのですね。物質的なもの、目に見えるものが何も残らないわけですから。

 でも、この一年、治療がフェイドアウトしていくなかで考え方が変わってきました。不妊治療のために仕事をやめたことで、私は逆に時間をもらったのかもしれない、と。

 月に何度もクリニックに通いますから完全に自由ではないけれど、せっかく時間があるからと、まずは念願の着付けを習いに行きました。時間があったので家でも予習復習かかさずやって、着付教室には必ず着物で行くようにして、半年後には普通に着てでかけられるようになっていました。そこそこの年齢になったら着物を自然に着られるような人になりたいという夢が一つ叶いました。

 着物が着られるようになったら着物ででかけられる場所が欲しくて、ちょうど落語ブームということもあって落語を習いに行くことにしました。そこでは年齢問わず気の合うお仲間さんと出会えて、新しい世界が広がっていきました。

 何か一つでも楽器ができるようになりたい、時間があるうちにと二胡教室に通うようになりました。1年経つと簡単な曲が弾けるようになって、音楽を聴く側だったのがわずかでも奏でる側になれたことで、ここでも世界が広がりました。

 治療に行かなくなりかけた頃、時間のあるうちにこの先役に立ちそうな勉強でもしてみようかと、行政書士の勉強を始めました。時間があったのでその時間をめいっぱい利用して勉強し、1回で合格することができました。

 この5年、不妊治療をせずに以前の仕事を続けていたらどうだっただろう。きっと、5年前とあまり変わり映えしない、ただ仕事を続けている自分がそこにいるだけ、という気がします。

 治療のことを考えると確かに無駄な5年間だったかもしれないけれども、不妊治療のようなことがなければ仕事をやめなかっただろうし、仕事を続けていたら、いまの着物生活はなかったし、落語の楽しさも知らないままで、音楽は相変わらず聴くだけのものだったのだろうと考えると、不妊治療のおかげで人生の彩りをいっぱいもらったのではないかと。

 そして、命とか生きるって幸せってどういうことかとか、そういうこともゆっくり考える時間があって、哲学書や精神世界の本やこれまで読んだことのない本をいっぱい読みました。そのおかげで、ただ物質的なものだけにとらわれない考え方ができるようになったことも今後の人生に大きな影響を与えてくれることと思います。

 「不妊治療.xlsファイル」を読み返してみると、いまでも涙する部分があるし、辛いことはたくさんあったし、仕事をやめて収入はないのにお金は出ていく一方で、しかし、こうして振り返ってみると、私にとって必要な経験と時間だったのだと、そう思えてなりません。
 
 人生に無駄はない、ということですね。そう考えると、この先また辛いこと、いやなことがあっても前向きにとらえて乗り越えていけそうです。

 今後は、治療体験記ではなくなりますが、不妊治療に関する情報などあれば引き続き書いていこうと思います。